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犯罪行為によって死亡した者と共同生活関係にあった同性のパートナーは犯給法5条1項1号にいう「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当するか(最判令和6年3月26日-犯罪被害者給付金不支給裁定取消請求事件)

執筆 磯村 保
業務分野
テーマ 判例解説
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執筆日

2024年3月28日

<事案の概要>

  1. A男(本件被害者)と原告X男は、平成6年頃から知り合って交際するようになり、その頃から共同生活を継続していたが、Aは、平成26年12月22日、Xと交際していたB男(本件加害者)によって殺害された。
  2. Xは、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律(以下「犯給法」)5条1項1号にいう「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」として同号所定の「犯罪被害者の配偶者」に該当するなどと主張して,愛知県公安委員会に対して遺族給付金(犯給法4条1号)の支給の裁定を申請したが、同委員会は,Xは犯給法5条1項1号所定の「犯罪被害者の配偶者」に該当しないとして,遺族給付金の支給をしない旨の裁定(以下、本件処分)を行った。
  3. Xは、愛知県を被告として、本件処分の取消しを請求。

<一審判決>

 一審判決においては、①同性の犯罪被害者と共同生活関係にあった者が犯給法5条1項1号の「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当し得るか否か(争点1)、及び、②Xが本件被害者Aと「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」であるといえるか否か(争点2)が問題となったが、同判決は、①について、「本件処分当時の我が国において同性間の共同生活関係が婚姻関係と同視し得るものであるとの社会通念が形成されていたとはいえず,本件処分当時においては,同性の犯罪被害者と共同生活関係にある者が,個別具体的な事情にかかわらず,『事実上婚姻関係と同様の事情にあった者』(犯給法5条1項1号)に当たると認めることはできない」と述べ、②を判断するまでもなく、Xの請求には理由がないとした。

<原審判決>

 原審において、Xは、上掲①・②に関する主張に加えて、③Xが犯給法5条1項1号の「配偶者」とは認められないことを理由に遺族給付金の支給を認めないとした本件処分が憲法14条1項に違反するなどとする主張(争点3)を追加した。

 原審は、まず①について、一審判決の理由付けとはややニュアンスを異にし、以下のように判示した。
 「犯給法5条1項1号においても、『配偶者』、『婚姻の届出』、『婚姻関係』という民法上の婚姻に関する概念により定められていることからすると、民法上は法律婚主義が採用されていることから(739条1項)、同号は、一次的には死亡した犯罪被害者と法律上の婚姻関係にあった配偶者を遺族給付金の受給権者としつつ、死亡した犯罪被害者との間において法律上の婚姻関係と同視し得る関係を有しながら婚姻の届出がない者も受給権者とするものであると解される。
 同号括弧書きの『婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。』との定めも、犯給法に特段の定めがないから、婚姻の届出ができる関係であることが前提となっていると解するのが自然であり、民法上婚姻の届出をすること自体が想定されていない同性間の関係も含まれ得るとすることは、条文の解釈から逸脱するものといわざるを得ない。」

 もっとも、原審判決は、これに加えて、Xの「指摘する社会的状況に関する種々の事情を考慮しても、上記の解釈を変更することが求められるまでの事情は見出すことができない。」と述べており、一審判決と実質的には異なるものではないとみることも可能である。

 また、③の争点については、「同性間の関係であるか異性間の関係であるかによって、犯罪被害者給付金の支給につき、結果的に別異の取扱いが生じていることについて、それをもって、本件規定の立法目的に合理的な根拠がなく、または、その手段・方法の具体的内容が立法目的との関連において不合理なものと認めることはできず、憲法14条1項に違反すると認めることはできない」とし、結論的には、一審判決と同様に、②の争点を検討するまでもなく、Xの請求は認められないとした。

<最高裁判決>

 最高裁は、原審判決を破棄し、原審に差し戻した。本判決には、多数意見のほか、林裁判官の補足意見、今崎裁判官の反対意見が付されている。

 多数意見の判旨は以下のとおりである(下線部は磯村が追加)。

「(1)犯給法は、昭和55年に制定されたものであるところ、平成13年法律第30号による改正により目的規定が置かれ、犯罪被害者等給付金を支給すること等により、犯罪被害等(犯罪行為による死亡等及び犯罪行為により不慮の死を遂げた者の遺族が受けた心身の被害をいう。以下同じ。)の早期の軽減に資することを目的とするものとされた(平成20年法律第15号による改正前の犯給法1条)。その後、平成16年に、犯罪等により害を被った者及びその遺族等の権利利益の保護を図ることを目的とする犯罪被害者等基本法が制定され(同法1条)、基本的施策の一つとして、国等は、これらの者が受けた被害による経済的負担の軽減を図るため、給付金の支給に係る制度の充実等必要な施策を講ずるものとされた(同法13条)。そして、平成20年法律第15号による改正により、犯給法は、犯罪行為により不慮の死を遂げた者の遺族等の犯罪被害等を早期に軽減するとともに、これらの者が再び平穏な生活を営むことができるよう支援するため、犯罪被害等を受けた者に対し犯罪被害者等給付金を支給するなどし、もって犯罪被害等を受けた者の権利利益の保護が図られる社会の実現に寄与することを目的とするものとされた(1条)。また、平成13年法律第30号及び平成20年法律第15号による犯給法の各改正により、一定の場合に遺族給付金の額が加算されることとなるなど、犯罪被害者等給付金の支給制度の拡充が図られた。
 以上のとおり、犯罪被害者等給付金の支給制度は、犯罪行為により不慮の死を遂げた者の遺族等の精神的、経済的打撃を早期に軽減するなどし、もって犯罪被害等を受けた者の権利利益の保護が図られる社会の実現に寄与することを目的とするものであり、同制度を充実させることが犯罪被害者等基本法による基本的施策の一つとされていること等にも照らせば、犯給法5条1項1号の解釈に当たっては、同制度の上記目的を十分に踏まえる必要があるものというべきである。
 (2)犯給法5条1項は、犯罪被害者等給付金の支給制度の目的が上記(1)のとおりであることに鑑み、遺族給付金の支給を受けることができる遺族として、犯罪被害者の死亡により精神的、経済的打撃を受けることが想定され、その早期の軽減等を図る必要性が高いと考えられる者を掲げたものと解される。
 そして、同項1号が、括弧書きにおいて、『婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者』を掲げているのも、婚姻の届出をしていないため民法上の配偶者に該当しない者であっても、犯罪被害者との関係や共同生活の実態等に鑑み、事実上婚姻関係と同様の事情にあったといえる場合には、犯罪被害者の死亡により、民法上の配偶者と同様に精神的、経済的打撃を受けることが想定され、その早期の軽減等を図る必要性が高いと考えられるからであると解される。しかるところ、そうした打撃を受け、その軽減等を図る必要性が高いと考えられる場合があることは、犯罪被害者と共同生活を営んでいた者が、犯罪被害者と異性であるか同性であるかによって直ちに異なるものとはいえない
 そうすると、犯罪被害者と同性の者であることのみをもって『婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者』に該当しないものとすることは、犯罪被害者等給付金の支給制度の目的を踏まえて遺族給付金の支給を受けることができる遺族を規定した犯給法5条1項1号括弧書きの趣旨に照らして相当でないというべきであり、また、上記の者に犯罪被害者と同性の者が該当し得ると解したとしても、その文理に反するものとはいえない。
 (3)以上によれば、犯罪被害者と同性の者は、犯給法5条1項1号括弧書きにいう『婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者』に該当し得ると解するのが相当である。」

 この判旨は、一審及び原審における①(争点1)の判断を否定するものであるが、②(争点2)の、Xが犯給法5条1項1号括弧書きに当たるかどうかという点については、一審・原審ともに判断をしておらず、この争点を事実審においてあらためて判断させる必要があることから、差し戻したものである。

  上掲の判旨について、林補足意見は、後掲の今崎反対意見を意識し、多数意見の判断はあくまで犯給法の制度目的を踏まえたものにとどまるものであることを強調し、「多数意見は、その説示から明らかなとおり、飽くまでも犯罪行為により不慮の死を遂げた者の遺族等への支援という特有の目的で支給される遺族給付金の受給権者に係る解釈を示したものである。上記文言と同一又は類似の文言が用いられている法令の規定は相当数存在するが、多数意見はそれらについて判断したものではない。それらの解釈は、当該規定に係る制度全体の趣旨目的や仕組み等を踏まえた上で、当該規定の趣旨に照らして行うべきものであり、規定ごとに検討する必要があるものである。」

 判決の射程からすると、多数意見の判旨自体からもこれと同様の趣旨は導かれるものと考えられるが、林補足意見は、念には念を入れて、この点をとくに指摘したものと思われる。

 これに対して、今崎裁判官の反対意見の骨子は、(1)同性パートナーに認められるべき損害賠償請求権との整合性に対する疑問、及び、(2)他法令の解釈への波及に対する懸念に係るものであり、それぞれ該当する部分の説示を引用する。

 (1)について。
 「私は、同性パートナー固有の権利として、精神的損害を理由とした賠償請求権については、もとより事案によることではあるが、認める余地があると考えている。しかし、財産的損害、とりわけ扶養利益喪失を理由とする損害賠償請求権については、民法752条の準用を認めない限りにわかに考え難いというのが大方の理解であろう。そうであるとすれば、犯罪被害者の同性パートナーに認められる損害賠償請求権は、仮に認められるとしても異性パートナーに比べて限定されたものとなる。それにもかかわらず、多数意見の見解によれば、同性パートナーは異性パートナーと同視され、同額の遺族給付金を支給されることになる。遺族給付金が損害填補の性格を有することを考えると、前提となる民事実体法上の権利との間でこのようなギャップが生じることは説明が困難と思われる。」

 (2)について。
 「犯給法5条1項1号の『婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者』と同一又は同趣旨の文言が置かれている例は少なくないが、そうした規定について、多数意見がいかなる解釈を想定しているかも明らかでない。個別法の解釈であり、犯給法と異なる解釈を採ることも可能と考えられるとはいえ、犯給法の解釈が他法令に波及することは当然想定され、その帰趨次第では社会に大きな影響を及ぼす可能性がある。現時点で、広がりの大きさは予測の限りではなく、その意味からも多数意見には懸念を抱かざるを得ない。」

<コメント>

 多数意見及び林補足意見は、犯給法に係る本件判決の判断が、あくまで同法の制度趣旨を考慮したものにすぎず、同一ないし同様の文言を含む他法令(たとえば、厚生年金保険法における遺族厚生年金受給権、労働者災害補償保険法における遺族補償年金の受給権、健康保険法の各種給付の受給権、国家公務員共済組合法の共済給付の受給権等)の解釈に当然に及ぶものではない旨を述べているが、同性のパートナーが犯給法5条1項1号に該当し得るとした判断の意義は大きく、今後は、他法令についても受給権の有無をめぐる争いが増加するものと思われる。
 また、今崎反対意見の中で、同性パートナーに慰謝料請求権が認められる可能性が指摘されているが、この点については、上掲引用部分には含まれていないが、林補足意見も賛意を表明している。しかし、この点に関する説示はあくまで抽象論にとどまるものであり、実際の事件においてそのような解釈が採られることになるかどうかは不明である。民法711条の解釈として、相続権を有しない同性のパートナーが固有の慰謝料請求権を行使することができるかどうかも今後の争点となろう。
 なお、本コラム執筆後に、本件最判が企業実務に及ぼす影響を論じた山本大輔弁護士の論説(NBL1265号21頁以下)に接した。

 

※本コラムは、一般的な情報提供を目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。コラム内の意見等については執筆者個人の見解によるものであり、当事務所を代表しての見解ではありません。個別具体的な問題については、必ず弁護士にご相談ください。

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